嗅覚が鈍い

嗅覚が鈍いです

テネブラエ / ラルチザン パフューム

昨年、仕事がハードすぎて香水スランプに陥っていた時期があったのですが、 それでも店頭でたまたま嗅いでみたこの香りに、一気に心を奪われました。

テネブラエ(TENEBRAE)/ ラルチザン パフューム(L'ARTISAN PARFUMEUR)

note:シダーウッド、インセンス、樹脂

主軸となるのは、不要をギリギリのキワのキワまで削ぎ落して残ったかのような、シンプル極まる木の香り。
それはたしかにシダーなのですが、でもなんだか、もっと概念としての「木」の香りです。ウッディ、という言葉からイメージする香りとも、今となっては少し距離があるように感じます。

そして鼻を近づけて、心を鎮めてじっくり聞いてみたときだけ感知できる、ほんの少しのフルーティとフローラル。それは蜜のような、この香りの数少ない、ほとんど無に近い甘さの要素です。私はここにヤラレました。
たぶんアンバーの甘さが共有されているのだと思うのですが、アンバーそのものはわりとしっかり感じ取れます。樹脂なのに蜜感。

アクアティックなニュアンスもほんの少しあって、間違いなく木の香りなのに、すごく透明なイメージが脳裏に浮かびます。湧き水のような、どこまでも澄んだ冷たい水の画です。
それでいて、同時にインセンスのスモーキーさが同居していて、全体に本当にシンプルなのに、奥行きが感じられるんですよ。

ウッディ系にありがちな何某かのエグみは、良い意味でゼロ。香りの変化も少なく、ほぼ同じ状態で静謐に静謐に推移します。意外と長く続くのですが、あまり拡散はしないです。
静かな静かな、自分だけの香りです。内観の香り。
静かで、(単に明度的な意味で)暗くて、希望も絶望もない、過去も未来もなく「今ここ」に在る、フラットな香り。

私は実はラルチザンには苦手な香りが多く(好きな香りももちろん点在していて、過去に記事にしたこともあるけれど)、そもそもシンプルすぎる香水も、薄味すぎる香水も基本的に好まないのですが、この香りは別格です。
好きすぎるラルチといえばアビサエで、あちらのほうが実用的で使用頻度も断然高いのですが、よりリスペクトしているのはテネブラエのほうかもしれません。

何しろ2022年の夏頃の私は働きすぎていて、それはキャリアの一環として必要な時期だったので何の後悔もないのですが、フルリモートで朝から夜中まで毎日根詰めて働いていると本当に昼夜の切替も何もなくなってしまい、もしあの状態をもう少し続けていたら、本当に身体の具合がおかしくなってしまったことと思います。テネブラエと出会ったのは、ちょうどその頃でした。

あの頃の私には、テネブラエが必要だったのだと思います。
それでもしつこく試して、しばらく後にサロンドパルファンで購入し、ほどなくして能天気な旦那に奪われたのですが、使用頻度自体は実はそこまで高くないのでまあいいとして(代わりにアビサエ買っていただいて)。

「使用しない香り」どころか「使用頻度が低い香り」でさえ、基本的には手元に一切置いておきたくない私が、テネブラエは人生に必須と感じています。
テネブラエ先生、これからもよろしくお願いします。


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