嗅覚が鈍い

嗅覚が鈍いです

ブラック / ピュアディスタンス

この香水はこういう香りなんです!!!!という事実を人に伝えたいと思ったとき、
良い香りだのヤな香りだのとワーワー言っても、そのような主観的かつ抽象的な表現のみでは、
相手に伝わることは当然ながら私の想念だけで、「事実」としての香りは伝わらないわけで、
香りなんてまあそんなもんでいいのかもしれないけれども、
良いものは良いと、どうしても説得力をもって人に伝えたいときというものが、
人には往々にしてあるもので、そのための、あくまでも手段として
「アクセントにカルダモンが」とか何とか、可能な限り客観的にも伝わりそうな具体名を出すのであって、
それが転じて「何を使ってるか解き明かしてやろう」とかいうことそのものが目的となり、
エスカレートして好奇心を超えた粗さがしの域に入ってしまうことがもしあるとするなら、
それって大変にアホらしいすね。

ブラックは香料、構成、何も明かされていないことでおなじみです。考えるな感じろ。
したがって、あーだこーだと、香りについてあまり具体的なことを書くのは野暮とも思うのですが、
好きな香りなので、それなりに人にお伝えしたいという気持ちがあります。

ピュアディスタンスのサンプル10種を試香した末の印象として、
ゴールドの次に好き、と感じたのがこのブラックでした。

第一印象としては、もうメチャクソに妖艶な、メンズの香り。
もっとも近頃は香水のジェンダーの区別なんかあってないようなもんかもしれませんが。
いわゆるオリエンタルウッディが軸で、アンバー系の、コクのある甘さを孕む木の香り。
ブランデーか何かのような雰囲気でもある。酒には詳しくないけども。

最初のほんのいっときだけ、そんなにクセのないスパイシー感が、
それらのウッディに辛く花を添えるように香り、メンズ香にありがちな、キッツいシトラス感はありません。

そして、下に隠れていたローズ+パチョリが、すぐに顔を出して主導権を握ります。
ちょうどフレデリックマルのポートレイトオブアレディのような、
明度低めのローズ+パチョリですが、ブラックだけあってパチョリ強めなのを、
ピュアディスタンス特有の、あのなにものにも代えがたいほの甘い、
優しいパウダリーが包み込み、なんとも心地よい香りとなって、これがずーっと続きます。

なお、ローズが苦手、パチョリが苦手、など人にはもろもろ苦手意識があるかと思うのですが、
ピュアディスタンスに関しては、そういった先入観によって切り捨ててしまうことをせず、
香水好きであればとりあえず肌に乗せてぜひ「体験」してみてほしいと思います。
なんでか、それすら心地よいと感じられる場合が、経験上少なくないからです。

ちなみに大変個人的なことではありますが、この香りの特に冒頭は
大学時代にずっと使っていたとあるメンズ香水に少し似ているため、
私にとってとても懐かしく感じられるもので、
そのせいか、いうほどハードルの高い香りともあまり感じませんでした。

纏って1日を過ごし、その香気によって「良い香りだ」を超えて「幸せだ」と感じられた体験は
とても久しぶりでもありました。

メンズっぽいとさんざん申しましたが、それはあくまで香りを客観的に表現するための手段であり、
ピュアディスタンスの香水はすべてジェンダーの区別なく使用できます。
というか、私はこういう香りこそ、ある種の女性が纏うとステキだと思うんですよ。
ダンディな男が使ってても、そのまんまやがな。

そのような、個人的な好ましさもさることながら
ゴールドもそうだったのですが、ピュアディスタンスはその作品に冠した主題(この場合はブラックという色や概念)を香りで表現し、
多くの人を納得させるような説得力があり、すぐれた芸術作品であるとも感じるのです。

持ち歩いて、身に纏って、自分の一部みたいに一緒にいられる芸術作品です。

Puredistance BLACK

賦香率:25%
調香:アントワーヌ・リー

公式:https://puredistancejapan.shop/