地中海の庭 / エルメス
私はイチジクを食べたことがない。
ナマで見たり、触れたりしたこともない。
したがって、味も香りもまったく知らない。
確かに、子供の頃から現在に至るまで、
フルーツを食べる習慣が人より少ない方ではあるかもしれない。
にしても、この香水をレビューする人は皆(特に海外の人)、
イチジクの葉の香りだ!と口を揃える。
みんななんでイチジクの葉の香りなんて知ってるんだ?
どういう人生歩んだらイチジクの葉の香りを嗅ぐことになるんだ?
令和イチの素朴な疑問です。どなたかご教示いただけますでしょうか。
そう思ってググったんですけど、
まず、イチジクというのはどうやらそう珍しいものではなく、
割とそのへんに生えている木であるらしい。個人宅の庭とか。
特に、イチジクの葉っぱ(フィグリーフ)は
欧米(というか、たぶんキリスト教圏?)においてはとても身近な?憧れの?
文化的に深い意味のあるものであるらしい。
したがって、日本人でも普通に嗅いだことのある人は珍しくないであろうし、
まして海外の一定の文化圏の人であれば
当たり前に知っている香りである、ということのようです。そうですか。
で、やっと地中海の庭の話なのですが、
初めて嗅いだときの、なんて良い香りなの!っていう衝撃ったらなかったです。
いかんせん中心となっているというフィグリーフの香りを知らないもので、
立派なことはなにもいえないのですが、
第一印象を偏差値5くらいの語彙で表すなら「ミカンの良い香り~」。
これではこの香水を知らない人に愛着が伝わらないと思うので、
嗅覚が鈍いなりにもう少し頑張る。
トップ、鼻を近づけて香りを吸い込むとアルコールのツンとする感じは殆どなく、
ある種のミントか何かのような、少しスッとする感じ(フランキンセンス?)と、
何か土のような、無愛想で苦い、ヘンなニオイ(ベチパー?)。
これはこれで衝撃的で、びっくりします。
私は好きだけど、この時点で回れ右してこの香水に背を向けてしまう人は多いかもしれないです。
が、大丈夫です。すぐにミドルがやってきます。
どこに隠れていたのか?と思うような、そこそこしっかりとした甘さが出てきます。
これがまさにフィグリーフなんでしょうか?私にはわかりません。
わかりませんが、とにかく香りの中心はこの、世にも心地よい甘さ。
この甘さが、薄くて柔らかく美しいシルクのスカーフか何かみたいにトップから続く苦みと重なり、
ミカン…いや、ベルガモットやオレンジなどの角のないシトラスがパッと花開き、
うっすらとヒノキのような香りもして、
まさに公式の説明にもあるような「光と影」を感じさせるのです。
これが本当に絶妙な、甘くて渋くてとっても印象的な、上品な良~い香りなんですよ。
やー、エルメスの名に恥じないというか、さすがというか、
こういうことがあるから、やっぱり私はハイブランドの香水にしっかりお金を払いたいなと思う。
ラストにかけてはギョッとするような香りの変化はなく、
本当に涼やかな風みたいに、透明なミドルの香りをしっかり継承しつつ
うっすらとホワイトフローラルやムスクが包みこむように長~く続きます。
大事なことなのでもう一度、長く続きます。
1日の終わりに服を脱いでシャワーを浴びるときに漂う、あの残り香の幸せなことといったら。