嗅覚が鈍い

嗅覚が鈍いです

ダーウィン / フエギア1833

ある日の六本木の店舗、週末の日中。

珍しく閑散としていました。別の場所でポップアップか何かがあったからかもしれません。
そんな中、無駄のない洗練された所作で、ものすごい速度で、
全フラスコを端から順に試している1人のお客さんがいました。
私の記憶が確かなら、彼(or彼女。性別を失念)はそれを何周か繰り返していました。

初見では威圧すら感じるあの空間に、
私はずっと、なんとなく遠慮してしまいがちなところがあったのは否めません。
店員さんと話が弾んで初めて、リラックスして香りを確かめたり
要望を口にしたりすることができていましたが、それはあくまで会話の範囲内。

あれだけたくさんのフラスコを目の前にして、
店員さんと一緒にその日の香りを探す作業は確かに楽しい。
楽しいけど、時には無尽蔵に、自分以外の誰かじゃなく自分の中の暴力的な欲求に従って、
バシバシ嗅いでもみたい!
…という願望が、まったくないといえば嘘になる。
いつも、そんな小さな小さなモヤモヤを抱えていました。

冒頭のお客さんを見て、私は何かが吹っ切れるのを感じました。
ありがとうお客さん。今日は私も手前で舵を取ることにします。

とか思ってその日のイッパツ目が、前々から気になっていたダーウィンでした。
これがいきなりのヒットとなってしまい、
私はめでたく航海に出た瞬間に座礁

シュッとして第一印象は、
オッ辛口のグリーンだね!とまるでビールでも飲んだかのような字面なのですが
それは一瞬にして柑橘の甘い香りに取って代わられ、
グリーンは濃厚な黄色に変化します。

この柑橘、私のイメージの中にあるグレープフルーツよりは甘く、苦味は少なめです。
それでいて、剥いた瞬間のあのフレッシュな酸味を感じる香り、
キラキラ光るような爽快感もあるのですが、
これがほんの少ーしの何かのクリーミーさで丸められているように感じられます。

それでいて、立ち上る香気の主役はシダーウッド。
というか、私の感覚だともうアレルギーの二大巨頭、スギヒノキ。
ヒノキのお風呂の良い香り。私はヒノキが大好き。なんなら精油のヒノキの香りも大好き。

とはいえ、こちらもツンと尖ったような印象はなく、
柑橘と同様、何者かによって少しクリーミーに丸まっています。
その上で、このシダーとグレープフルーツがとてもなめらかに混じり合っているのです。

というと本当に何かアロマのような香りなのかなとも思えますが、
私はアロマな香りも好きなのでそれでも一向に構いませんが、
そうではなくて少し、これまた何者かによる華やかさも感じられます。
ここが好きなとこ。

柑橘の濃厚な黄色がさらに濃くなって、ヒノキで渋いブラウンになるのかと思いきや
混じり合った香気は何か少しローズか何かと錯覚すらするような
少しの華やかさを孕んで「赤」に近い香りに。
全体にはそんな印象です。

時間の経過に伴う香りの変化は小さいように思います。
シンプルで、香水が苦手という人にも受け入れられやすい香りかと思います。
「甘い香りが苦手」みたいなことを言う男性も好んで使用してくれがち。

しかしこれ、本当に、手前で舵を取らなかったらなかなか辿り着けなかった香りであろうと思う。
あのときのお客さん、重ねてありがとう。

フエギア1833(Fueguia1833)
ダーウィンDarwin
Launch:2010年
Tonic note:Cedarwood
Dominant note:Vetiver
Sub Dominant:Grapefruit