嗅覚が鈍い

嗅覚が鈍いです

12 / ピュアディスタンス

香水にまつわる、あまりポジティブではない印象を示す言葉として世間では定着している感のある「おばあちゃんの鏡台のにおい」なんですが、私がPuredistance 12のスプレーに初めて顔を近づけた際の印象はまさに祖母の鏡台でした。とともに、これはPuredistanceで過去イチ好きなやつだ!と、瞬間的に判断を下すこととなりました。私は、私の祖母の鏡台のあの香りがとても好きです。

祖母は決して派手ではなくて、むしろ普段は着飾らないんだけど、社交家で、母や私よりも流行に敏感でした。全力で都心暮らしを楽しんでいるように見えました。なぜだか香道を嗜んでいたので、お茶や書道や着付けはもちろん、和歌や日本史にも精通していました。本当に、おばあちゃんのこういうところ、私悲しいくらい一切受け継いでないな。それでいて、一緒にジムのプールに行けば私よりもずっと泳げたし、一緒に郊外へ出かけてみれば私より歩くのが速く疲れ知らずで、とにかく元気。

そんな自慢の祖母の鏡台に近づくと、いつもローズ系の良い香りが漂っていました。カドがなく、湿度を感じさせるつややかでなめらか~なローズと、何かいろいろな白い花々と、少しパウダー系の甘い香り。あれが実際なんの香りだったのか今となっては確かめようがないのですが、古臭い / 年寄り臭い / ババ臭い(一句できた)などといったネガティブなイメージは、少なくとも私は、当時も今もありません。時代が変わってもそのまま在り続ける、凛とした女性らしさを象徴する直球の香りこそ、私の「おばあちゃんの鏡台の香り」。

そんなことを思い、過去イチを確信してワクワク試した「12」。このいかにも濃厚な気配からしてウエスト以下の位置に使用したほうがよさそうだな~というようなことは想定しつつ、最初はよーく香りを感じたかったので手首につけました。その冒頭、香り全体の、やたらめったら拡散しない濃厚さ・なめらかさに信頼のPuredistanceをまずは感じながら、コリアンダーやカルダモンといったスパイスと、明るくも締まったシトラスが意外とメンズライクに思えて新鮮な驚き。

それでいてすぐ下に白いフローラルブーケが控えているのがわかります。ほんの十数分ほどでトップが去ると、このフローラルがじわりと、じゅわっと花開きます。ユリやジャスミン、イランイランが文字通り花を添える中、何かこう私の中にも少なからず存在する「まだまだ子供のままでいたい精神」みたいなものを鼻で笑って吹き飛ばすような気高さと、いっそのこと飲んじゃいたくなるような居ても立ってもいられないフルーティさ、そういった一見両極端にも思える特質をあわせもつ極上のローズ。私はやっぱり12の主役はこのローズだと思います。やたらと個性が強いわけではなく、正統派の真っ向勝負ともいえる香りなのに唯一無二。Puredistanceの真骨頂じゃないですか。

そこから最下層に控えていたバニラ・トンカやアイリスのパウダリーな甘さとモスやサンダルウッドなどの丸みと少しの渋みが、これまたPuredistanceらしい安心・安全のベースノートとして徐々に徐々に存在感を強めてすべてを包んでいく、そこからの数時間は本当に至福です。なんといっても、突出したひとつの何かがシンプルに香るのではなくて、すべてが溶ける寸前まで混じり合って、それはひとつの大きな完成品であって、そこに一切の過不足はなく、纏う人に「考え」させない、私はやっぱりそういう香りのほうが好きっぽい。

さらに個人的なことをいうと、これは私にはやや高揚する香り。夜よりも昼、就寝時よりも活動時。身に纏ったらさあ出かけよう!さあ新しいことをやろう!と思うような香り。これはきっと祖母のことを思い出すからだと思うし、本当に個人的なことなので、あまりアテにならない情報かもしれません。でも、凛とした清潔な美しさや女性性(それは女だけのものではない)を体現するような、かなり普遍的な香りであるとも思います。普遍的というからには、きっと多くの人間が同様の印象を抱くのではないかなということでもあって、みんなの嫌いな言葉をあえて使うけどたぶん「モテる」と思うんですよね。この香りは。クセやひっかかりも全然ないし…

あまりにも直球でキレイなため、自分には似合わないのではないか?などと少々悩みもしたけど、香りに関してはギャップをもたせたい方なので、まあOKということにします。おばあちゃんみたいに教養豊かにはなれないけど、おばあちゃんみたいに元気に歳を重ねたいな。それまでずっと寄り添ってほしいな。と思った香り。

Puredistance No.12 parfum extrait
・トップ:ベルガモットオイル、マンダリンオイル、カルダモンオイル、コリアンダーオイル、イランイランオイル、ナルシスアブソリュート
・ミドル:ジャスミンアブソリュート、ローズオイル、ゼラニウムオイル、スズラン、オレンジブロッサム、オスマンサスアブソリュート、オリスバター、ヘリオトロープ 、へディオンHC
・ベース:ベチバー、サンダルウッドオイル、パチュリオイル、オークモス、トンカビーン、アンブレットノート、アンブロキサン、バニラ、ムスク
賦香率:25%
調香師:ナタリー・フェストエア
puredistancejapan e-store


※今日の1曲
2021年中、もっとも衝撃的だった曲のひとつ。
香りのイメージとは全然違うけど「blue」。
このボーカルの女性たちみたいな服を着て、12の香りを纏いたいな~

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